2026年3月8日日曜日

令和8年度科研費に採択されました――申請までの準備を振り返って

これまで当ブログでは、文献整理ツールの紹介や、生成AI時代のオープンアクセスへの向き合い方など、研究を効率化し発信するための話題を中心に書いてきました。今回は少し趣向を変えて、研究者にとって避けて通れない研究費の獲得、なかでも科研費(科学研究費助成事業)の申請について、私自身の経験をもとに書いてみたいと思います。

先日、研究代表者として応募していた令和8年度科研費の新規採択通知を受け取りました。

日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 2026年4月 - 2029年3月
(令和8年度新規採択。課題名や共同研究者などの詳細は researchmap にて公開しています)

現在の大学に着任してから、研究代表者として科研費に申請したのは今回で2回目で、幸いどちらも採択していただくことができました。ただ、これは出せば必ず通るという話ではまったくありません。むしろ、難しいと判断した年には申請を見送るという選択を重ねてきた結果でもあります。

この記事では、これから科研費に初めて挑戦する若手研究者や大学院生、あるいは申請を迷っている方に向けて、私が今回の申請までにどのような準備をしてきたのかを振り返ってみたいと思います。

1. 申請を見送った1年と、成果の取りまとめ

実は昨年度(令和7年度向け)の公募では、私は申請を見送りました。理由は明確で、前回の科研費で得られた研究成果を、まだ論文として十分に発表できていなかったためです。

当初3年計画で採択されていた科研費を1年延長し、その期間を成果の取りまとめに充てました。その結果、2025年の1年間で、以下の成果をいずれも筆頭かつ責任著者として発表することができました。

  • 中堅の国際誌での原著論文 2報
  • 日本語の総説論文 1報
  • 学会発表 1件

科研費の審査では、この研究者は計画を確実に実行できるか、という点が重視されます。どれほど魅力的な計画書を書いても、直近の業績が伴っていなければ説得力は弱くなってしまいます。まず論文を出し、そのうえで申請する。当たり前のことかもしれませんが、この順序を守ったことが、今回の採択につながった最も大きな要因だったと考えています。

2. AI技術は実績とあわせて示す

今回の研究計画には、2024年のノーベル化学賞でも注目された「AlphaFold」や「ProteinMPNN」といった、タンパク質の構造予測・デザインのためのAI技術を組み込んでいます。

ただ、こうした話題の技術を計画書に並べるだけでは意味がありません。大切なのはAIを使うこと自体ではなく、自分の研究課題を解決するためにそれをどう活用するかです。私の場合、2025年に発表した論文や学会発表の時点で、すでにこれらのツールを用いた成果を示すことができていました。実際に使って成果を出している手法で次の課題に取り組む、という流れを自然に示せたことが、計画の実現可能性の評価につながったのだと思います。

3. 共同研究の体制

研究は一人で完結するものではありません。今回の申請では、これまでに複数の共同研究の実績がある先生に、研究分担者として参画していただきました。

それぞれの専門性や知見の蓄積に加えて、すでに機能している研究チームがあることは、この体制なら研究を着実に進められるだろう、という審査上の判断材料にもなります。若手の方には、日頃から学会などで交流を重ね、いざというときに協力し合える関係を築いておくことをお勧めします。

4. 審査する側を経験して

もう一つ、今回の申請に役立ったと感じているのは、2025年に科研費以外の研究費助成プログラムで審査員(ピアレビュー)を務める機会をいただいたことです。

限られた時間で何十件もの申請書を読み込むという経験を通じて、忙しい審査員にどう書けば伝わるのか、図をどこに配置すれば要点がすぐに伝わるのか、といった読み手の視点を具体的に持てるようになりました。この経験は、今回の計画書を仕上げるうえで大きな助けになりました。もし審査側に回る機会があれば、相応の労力はかかりますが、引き受けてみる価値は十分にあると思います。必ず自分の申請書の執筆に活きてきます。

おわりに

科研費は、出さなければ採択されることはありません。一方で、準備が整わないまま急いで出すよりも、まず手元の実験データを論文としてまとめ、確かな実績を整えてから申請するという選択が有効な場合もあると感じています。

この記事が、これから科研費に挑戦する若手研究者や大学院生の皆さん、そして日々の業務に追われて申請をためらっている方々にとって、少しでも参考になれば幸いです。

4月からは大学の組織運営に関わる新しい仕事も始まり、いっそう慌ただしい日々になりそうですが、研究室の学生たちとともに、この新しいプロジェクトを楽しみながら進めていきたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿